四方山話

アメリカ大陸初上陸

アメリカ大陸の地を初めて踏んだのは、１９９１年２月。まだ右も左もわからん状態で先輩ジャンパーが行っているというDZへ、のこのこくっついて行ったのが最初。この時にジャンプでの怪我というものを初めて経験したわけだが（そんなもん、経験しないにこしたことはないが）、怪我は左足のひ骨骨折（細い方）と脱臼、もちろん固定の為の手術を行った。この年は、湾岸戦争が勃発し、このアメリカツアーをキャンセルした仲間もいたくらいだったのだが、僕のこの手術を担当してくれた医師の名前がなんと「フセイン」、その名前を告げてくれた看護婦さんは無表情だったのだが、こっちとしてはやはり何らかのアクションを取りたくなる。一応驚いたフリをしてみたが、それが通じたかどうか、は分からない。「でも、とっても腕のいい医者よ」とさらにたたみ掛けてきたが、会話の最初についている「でも」っていうのが、やはり気になる。とはいうものの、足はズキズキして痛くてしょうがない。なんでもいいからなんとかしてくれぇ！ってのもあって、とっとと手術承諾書にサインした。

足首の怪我だけで済んだせいか、食事はごくごく普通。それよりも、好みのメニューを聞いてくるのには驚いた。
「肉、焼き加減は？」（おいおい、そんなことまで聞いてくれるんかい？）
「フルーツはオレンジとメロンとりんごとあるけど？」
「ジュースはオレンジ？それともグレープフルーツ？」
てな具合である。
たまたまステーキが出た夕食を食べているときに、一緒にジャンプしていた人達がお見舞いに来てくれたのだが、僕が食べている夕食をみて、みな一様に愕然としていた。
「おれたちよりずっといいもん食ってやがる．．．．．」
でもね、焼き加減聞かれて「レア」って答えたそのステーキ、出てきたのは、しっかりまんなかまで焼けた、かたーいステーキでしたよ（ま、いっか）。

この病院に入院していたのは三日間だけ。「あんた、滞在するところあるんでしょ。足をちゃんと上にあげておけば大丈夫よ。あとは三日に一度、この先生のところへ通いなさい」、これでオシマイ、である。アメリカでは入院は短い、という話は聞いたことがあるが、さすがにこの時は短けぇ！！って思ったもんだ。だが、いわれてみればそれも納得。別に一人で滞在しているわけでもないし、なにより四六時中看護が必要なほど悪いわけでもない。あとは街の医者（いわゆるかかりつけ医、という位置づけのお医者さん）にバトンタッチ、というわけである。なるほどそれも合理的なことだ。

結局、この怪我のおかげで、当初予定の１０日間の滞在のはずが、約一ヶ月に及んでしまった。帰国しようにも痛みがなかなか治まらずに、とてもそんな気力が沸いてこなかったのである。最初の帰国予定を過ぎた２，３日は落ち着かなかったが、それも一週間を過ぎると、えーい、こうなりゃいつまででもいたるわい！と半ばやけっぱちにさえなっていた（ちょっとオオゲサ）。だが本当に痛みが引いてきて、松葉杖で動き回れるくらいになったのが、怪我から三週間くらいたってから、だったのである。そうしたらようやく「帰国するか．．．」という気分が沸いてきたのである。日本語のチラシの類（アメリカ行った事がある人は知っていると思うが、日本食のレストランにおいてあるようなもの）に載っていた、ロスー成田往復で４５０ドルの宣伝を見つけ、さっそく連絡をとってチケットを取ってもらった。”往復”と書いてあったが、「あのぉ、片道でいいんですが．．．．」などとメンドウなことは言わなかった。出発前日の夕方に、チケットを受け取る、ということで、ロス市内に向かった。電話であらかじめクレジットカードOKを聞いていたのだが、待ち合わせ場所にある店のレストランの駐車場を指定されたときに、ちょっと嫌な予感が走った。なにせ予定の滞在を大幅にオーバーしたため、手持ちの現金・TCもあとわずか。せいぜい空港のレストランで朝飯が食えるくらい、程度の持ち合わせしかなかったのだ。案の定、おっちゃんはいった、
「出来れば現金かTCで．．．．」
「ばっきゃやろーー！」怪我していなければ、松葉杖でどついていたことだろう。
（怪我してなきゃ杖なんか持ってねぇけどな．．．）
しかし、持たぬものはやはり立場は不利。一度帰国する、との決意をここで覆すのは非常に勇気がいる。しかし、手持ちのゼニはもうない．．．．．。

結局自分を送ってくれた先輩がTCを貸してくれて、まぁ事無きを得たが、なんとも後味の、非常にバツの悪い出来事でした。その日はあらかじめ予約しておいた、空港そばのホテルに一拍。
部屋に着いたら急に空腹感が襲ってきたので、ちかくのコンビニにでもいくか、と思い、杖を突きながらホテルの正面玄関を出た。が、そこでガクゼン．．．．
左右見渡しても、コンビニらしき建物なんぞちっとも見当たらないのだ。
遥か彼方には、それらしきネオンが見えるものの、とてもそんなところまで歩いていく根性は無い。いや、そんな根性はなくって正解だったかもしれない。あまりにも無防備である。夜遅くに杖ついて歩いているなんて、襲って下さい、といっているようなもんだ。現金、TCはほとんど持っていなかったが、これではいざ襲われたときに「これで勘弁して下さい」と銭を差し出す事も出来ない。危ない、危ない．．．明日帰国だというのに、こんな所で野垂れ死にはしたくないもんだ。早々に部屋に引き揚げたが、だからといって空腹が収まったわけではない。何か食い物．．．．．ま、いっか．．．．
仕方ないので、自販機のコーラを一気のみして、とっとと寝ました。

トータルジャンプ回数６８回、ジャンプを始めて６ヶ月。
苦いニガーイ、アメリカ初体験の旅でした。

後日談だが、松葉杖ついてDZをうろちょろしているときに、別の日本人グループがひょっこりと遊びに来ていた。その中の一人は「あーあ、アメリカくんだりまで来て怪我して、気の毒というか、アホというか．．．．」と思って自分のことをみていたそうな。そのお人、何を隠そう現在TSCでスタッフとして活躍している。僕がイントラになって、このアメリカでの怪我の話をたまたましたときに「あぁー、あの時の杖ついてた人だったんだぁ！！」と、思わぬ再会(!?)を果たした。いやはや、世の中狭いもんです。（オシマイ）